所得税調査の事例

第四回 元特別国税調査官による所得税調査の事例(4)不動産貸付の経費

Q

私はサラリーマンですが、父から相続した土地にアパートを建て賃貸経営を始めました。家賃収入の申告をする際にどういうものが経費となるか教えてください。

家賃収入から経費を引いて不動産所得として申告することになります。不動産所得の経費は限定され、建物の減価償却費、固定資産税、火災保険料、修繕費、不動産業者への管理手数料、建物等の借入金の利息等が不動産収入を得るための一般的な経費です。

解説 一般的な経費以外の経費について

一般的な経費以外の経費について
(1)交際費

不動産管理業者に収入管理や契約委託している場合の手土産代などは業務に直接必要な経費と認められます。仮に、店舗として貸し付けていた場合に、その店舗で飲食した費用は直接必要な経費ではなく、お付き合いとして間接的なものであり経費にはできません。

(2)パソコン、ソフト購入代、経営本購入代

パソコンは家賃管理だけでなく個人的にも使うでしょうから家事按分計算が必要です。家賃管理の会計ソフトは全額経費となります。経営本は参考図書ですから必要経費に算入できません。

(3)電話料金

家事関連費であり合理的に区分する家事按分計算が必要です。

(4)電気料金

自宅の一室でパソコンを利用して家賃管理を行っていた場合、パソコンに使用する電気料金は家事関連費であり合理的に区分する家事按分計算が必要です。

(5)交通費

遠隔地にアパートがあり、家賃の集金や共有部分の掃除や周辺の草取り等で車で行く場合のガソリン代は合理的に区分できれば家事按分計算のうえ必要経費に算入できると思います。

(6)その他(収入と経費の両建て)

退去時の返還する敷金からリフォーム代金を差し引いた場合に、リフォーム代を修繕費として経費計上する一方、敷金から差し引いたリフォーム代を雑収入として収入計上しなければなりません。いわゆる収入と経費の両建てとなります。

調査事例では、退去時に敷金から差し引いた現状復帰のためのリフォーム代を修繕費として経費計上していましたが、敷金から差し引いた金額を収入計上していなかった例が多々見受けられました。

前述の(2)から(5)は、家事関連費であり必要経費と家事費が一体となっている支出です。家事費は経費になりませんので、税務署から経費について指摘された場合は、アパート経営に必要であること、かつ、必要である部分を明らかに区分できた根拠を立証・説明しなければなりません。
また、上記経費については理論上のものであり、現実的には、合理的に家事按分をした場合の経費となる額はかなり少額になると思われます。

青色図鑑2019年9月No.079号の「家事関連費」でも、事例のウェブデザイン業のトイレ等共有部分は、来客等の使用割合がかなり低いと考えられるため、計算には含んでおりません。

執筆:税理士 石倉祐司