所得税調査の事例

第一回 元特別国税調査官による所得税調査の事例(1)

Q

私は7年前から杉並区で居酒屋を経営しています。先日、知り合いの同業者に税務署の調査があり、延滞金などの追加で税金を沢山払ったと聞きました。知り合いの話を聞いたら少し不安になったのですが、飲食店は調査されやすいのでしょうか?

税務署は、飲食店だからと言って調査を多くすることはありません。税務署では申告者はもちろんですが、申告された多くの業種の方々を広く調査しています。ただし、飲食店が多い地域や繁華街を管轄する税務署では飲食店の調査が多い場合もあります。
飲食店の場合は、毎日の現金売上が基本となるうえに操作しやすいということもあり、その管理方法等を確認するためです。

解説

調査は、税務署にとって重要な仕事のひとつです。税務署では、申告した者が会社であれば法人税、個人であれば税務署、相続、贈与、土地の譲渡であれば資産税の職員が担当します。業種や営業形態によりそれぞれ申告内容が違うように税目毎に独自性があり調査内容や方法も違いますが、今回は個人の「飲食店を経営している」人のいわゆる所得税の調査について解説します。

まず、どのような調査対象を選ぶのか?

皆さんは確定申告書を提出する際に青色決算書も同時に提出しています。青色決算書には「飲食店の1年間の営業結果」である経費内訳や所得金額が記載されているので、税務署では、この青色決算書をORC処理(パソコンでの読み取り処理)をして業種ごとに分析します。決算書から読み取ったデータから差益率(粗利率)、各経費率、所得率など都区内の平均値が計算されるとともに、この平均値と申告者ごとのデータを比較した選定表が作成されます。

仮に、都区内の居酒屋の平均差益率が65%で所得率が30%という分析結果の場合に、あなたの差益率が40%、所得率が20%であったとしたら、担当者は「こんなに低いのはなぜ?」「売上、仕入、経費は正しいのか?」と疑問を持ち、即調査対象に選ぶことになります。しかし、多くは単に数値の異常値があるからといって調査対象とするわけではありません。

『土地や建物、高級車、地金や多額の株を購入していた』、『ネット情報では盛況と騒がれている』など、これらの多くの資料や情報を総合的に検討した結果、調査対象を選定します。

また、選定されてもすべて調査するわけではなく、売上規模や他の業種からの選定数、調査担当職員数など費用対効果も考慮しながら調査件数と優先順位を決定します。

因みに、税務調査の方法にはいろいろあります。単に計算誤りがあったり、生命保険金の満期金が漏れていた場合などであれば税務署への来所依頼(呼び出し)で修正申告を提出してもう「事後処理」、売上漏れの有無、計算方法に誤りがないかなどを申告者の自宅や店舗に行き、売上・仕入伝票の確認や帳簿調査、銀行調査まで延べ4日前後かけて万遍なくチェックする「一般調査」、疑問点のみの解明を目的とする2日程度の「着眼調査」などがあります。

執筆:税理士 石倉祐司