相続・贈与の注意点

第8回 税理士による相続の基礎(4)

Q

私の父は平成29年4月25日に死亡しました。父は自宅の土地、建物、アパートの土地、建物を所有し、相続人は母、私(長男)、弟(次男)の3人(全員同居)で、相続税申告と納税を済ませました。先日、叔母から叔父がなくなったとき、借金が多くあったから相続税の申告も納税もしなかったと聞きました。
もしも、父に借金があったら相続税を払わなくてよかったのでしょうか?

質問のとおり、仮にお父さんに銀行等からの借金(債務)があり、相続財産から借金を引いた結果が基礎控除額以下の場合は、相続税申告と納税が不要となります。
遺した相続財産 – 債務と葬儀費用 < 基礎控除額 ⇒ 相続税申告と納税が不要
しかし、お父さんに借金があるということは、遺族にその借金を残す=債務を相続させることになり、当然にあなたやお母さん、弟さん(次男)の3人が将来にわたってその返済をしなければなりません。その資力がない場合は、自宅の土地、建物、アパートの土地、建物を売却して返済することもあり得ますので、相続対策としていたずらに借金をすることは注意しなければなりません。

解説

借金は相続対策として有効か

借金は債務控除ができ、相続財産を減らす観点からは有効です。だからといって、相続税対策として安易に債務控除を増やすための借金はお勧めできません。上記【A】でも述べたとおり、遺族に将来の大きな負債を残すことにもなりかねません。その理由を、現在不動産業者等の新聞広告で目にする「相続対策の不動産活用法」などの中で提案している「サブリース契約」を見てみましょう。

不動産業者や住宅メーカーは、相続税対策として地主にアパートや賃貸マンションの建設を勧めます。

この狙いは、更地のままより貸家住宅を建てた方が土地の評価額が下がるため相続税が少なくなり、さらに建設資金を銀行から借金すると債務控除が増えるため一層相続税が減少する点にあります。

不動産業者等が提案する「サブリース契約」は、銀行から地主等が借金をしてアパート建築契約とセットにされ、不動産業者等の関連会社がアパートを長期間借り上げ、アパート所有者に代わって入居者に転貸して経営するというものです。不動産業者等の関連会社は、管理手数料を差し引いた残りを家賃としてアパート所有者に支払います。

一方、銀行からの借金はアパートローンと言われ、アパート所有者の家賃収入で返済します。

不動産業者等は家賃の20年や30年保証を売り文句としていますが、入居率の悪化などを理由に契約更改で家賃は減額となるケースも少なくないようです。その後も“家賃収入が見込めない”からと契約打ち切りとなり、残った借金の返済のため土地とアパートを競売に掛けられたり、それでも返しきれない場合は自己破産になることもあります。

相続税を少しでも少なくしたい、払いたくないという思いから不動産業者の勧めで、500万円の相続税を減額するために1億円近い借金をした結果、約20年後に破産状態になった例もあります。

家賃が減額になるリスク、将来の大規模修繕費用などを考慮し、できるだけ将来にツケを残さない返済可能な借金をする計画が必要と思います。

執筆: 税理士 石倉祐司