相続・贈与の注意点
第7回 税理士による相続の基礎(3)二次相続を考えた遺産分割
Q
父が亡くなり、まだ遺産分割が決まっていませんが、将来母が亡くなった時のことも考えて、私たち息子(私と弟の2人)も遺産を相続したほうがいいと聞きましたが、どうしてですか?
A
将来お母さんが亡くなった時(二次相続)、お母さんがお父さんから相続した財産を長男と二男へ相続させるので、お父さんが亡くなった時(一次相続)の相続税の納税額と将来の二次相続での納税額を併せて納税額が少なくなるように、一次相続でどのように遺産分割するか考えます。
例えば、お母さんに固有の財産がないこと、税額控除は考慮しないことを前提として、お父さんの遺産は2億円の課税価額であったとします。詳しい計算過程は省略しますが、課税価額(課税価格の合計額)から基礎控除を控除して、各人の税額を計算すると、
一次相続額+二次相続額=合計相続税額は、
(1)一次相続を法定相続分で相続すると、二次相続ではお母さんの遺産を兄弟で1/2ずつ相続することになり、納税額は2,120万円となります。
(2)一次相続を妻が全て相続すると、二次相続ではお母さんの遺産を兄弟で1/2ずつ相続することになり、納税額は3,880万円となります。
(3)一次相続を子供が全て相続すると二次相続ではないため、納税額は2,700万円となります。
比較すると(1)の法定相続分で相続をした方が最も相続税額は少なくなります。
解説
1.一次相続、二次相続とは
ご質問の場合で見ると、お父さんが死亡した時、お母さん、長男、次男の3人が相続人となります。これが一次相続です。そして、お母さんも高齢である場合には、お父さんの死亡後、それほど遠くない将来、お母さんも亡くなることが想定され、この時の相続人は長男、次男の2人になります。これが二次相続です。
一次相続、二次相続どちらも相続財産に対して相続税がかかる場合には、二次相続まで考慮した相続税対策を検討することが多いです。しかし、若くして夫を亡くして未亡人になり子供が幼かったり学生というような場合は、二次相続を考えることなく、今後の長い人生を考えて妻が全財産を相続することもよくある事例です。
なお、お父さんからお母さんと子供への一次相続では、お母さんが取得する相続分が、1億6000万円以下又は法定相続分以下であれば相続税をかけないという「配偶者の税額軽減の特例」を適用でき、お母さんの相続税がゼロになります。これは、お母さんの老後の生活保障や、一次相続から二次相続までの期間が短いことなどを考慮したうえでの制度です。したがって、一次相続では、お母さんよりも子供さんの方が相続税を納税する可能性が高いです。
2.二次相続は納税額が増える可能性を考慮
二次相続は相続人に配偶者がいないため、「配偶者の税額軽減の特例」は利用できません。また、相続人が1人減っているため、基礎控除額が600万円減少します。更に、子どもが親と同居していなかった場合は、自宅の土地の「小規模宅地等の特例」の適用が受けられない場合もあり、相続税の納税額が高額になることもあります。
このように一次相続と状況が変わることや、相続財産が自宅の土地建物のみで容易に分割できない場合など、両親のいない二次相続では、相続資金に困り土地建物を売却することもあります。
3.二次相続で納税に困らないための対策例
- 小規模宅地等の特例を適用するため親との同居などについて検討
- 配偶者がもともと多額の財産を持っている場合などは、一次相続で配偶者が多額の財産を取得せず、子供に多めに相続させる。
- 二次相続の際の納税資金にするため、配偶者が取得した現預金で生命保険契約を検討(生命保険金は1人500万円の非課税適用もありますので、納税資金を確保ししつつ相続財産を減らすことができる。)
いずれにしても、親の年齢を考え、残されたお母さんを含む遺族の生活設計等をよく話し合っておくことが大事かと思います。
執筆: 税理士 石倉祐司